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| 自転車資料 |
その5 「前田工業 5」
技術開発競争 番外編 ジュニアスポーツ車向け巨大ローギヤ
私が始めて乗ったサイクリング車はBSのオーバル5という物で、オーバルギヤ48歯のチェンリングに15−24の5段フリーホイール(サンツアーのパーフェクトフリー)変速機はスキッター装備でした。昭和43年のことです。昭和44年ころに「オーテル28」という名前でローギヤ28歯を装着した5段変速のジュニアスポーツが発売された様に記憶しております。(14−28だった?)高度経済成長真っ直中のこの頃、都市に集中する人々に安価な住宅を供給するために各地の小高い丘や山が切り崩されて新興住宅街が造成されました。山を切り崩したのですからそれまでの住宅街とは違って急坂の途中に家が立っている状態でギヤ比2=48/24では厳しくて登れません、そこで前ギヤ2枚に正常進化すれば良かったのでしょうが価格が高くなるので不採用、ローギヤの拡大に走ったのです。
スタートは28歯、対抗する完成車メーカーから30歯、続いて32歯、トドメの34歯と成ってようやく歯止めがかかりました。(BSのオーテルマックスなど)48/34・ギヤ比1.4 とは。 当然旧来の変速機では対応出来ません、キャパシティは十分でも最大ローギヤの設計がせいぜい26歯のスキッターなどではプーリーがローギヤに接触してしまいます。
新しい変速機が必要になりました、必要は発明の母、いや開発の父なのでしょう、サンツアーもシマノも試行錯誤の末それからの10年を決めるようなプーリーの配置を完成しました。当時「天秤式が良い」とか「シーソー式が良い」とか後から考えると一知半解の盲言記事が自転車雑誌2誌の誌上を賑わしていましたですね、図面の上で単純な線図を書いてああだコウダ、3次元の動きをする変速機の動作を2次元上(平面図だけ)で表して優劣が有るかの様にかき立てる、あっ今の評論漢も同じか、変速前と終了時のプーリー位置を線で繋いでどうしたコウシタ。変速中にチェンがギヤを乗り越える際のプーリーの動き、スラントパンタの動き、ダブルテンションによる本体の動きなどまったく無視したすばらしい技術評論風文学作品を何度も拝見しました。幸い変速機メーカーはその様な戯れ言には惑わされず科学的手法・現物主義で開発を続けられたので大事には至らなかったのです。
ところで、当時5段フリーが標準だった頃のチェンは今では想像もつかない程たわみ難い物で、そのためジョッキープーリーとギヤの歯先を3−4駒も離す設計でした。昨今のインデックスシステム用チェンのようにくたくたに曲がり、ねじれ易いようには作られていませんでした、この当時の変速機に現在のチェンを装着すると満足に変速しません、チェンが柔らかすぎてプーリーの移動を吸収してしまうからです。
1.変速機本体、プーリーの位置
2.フリーの歯先
図解ですと説明し易いのですが文章でどこまで説明出来るか、自信無いですが。用語の統一、勝手に統一させて頂きます。
ケージ(チェンケージ・プーリーを支えている全体)
ジョッキープーリー(フリーに近い方のプーリー)
テンションプーリー(下側のプーリー)
ケージ支点(チェンケージの回転中心)
天秤式(両プーリーを結ぶ線からケージ支点がずれている)
シーソー式(ケージ支点が両プーリーを結ぶ線上に有る)
レース用の最大ローギヤ26歯用変速機においてはジョッキープーリーの位置は大同小異でした。面白いのはローギヤ34歯用変速機です。まずケージ支点がローギヤの外周より外側になければなりません、ジョッキープーリーが歯に触れては変速出来ないからです。適当に離す必要が有ります。スラントパンタはその点楽です、ケージ支点はローギヤ側へ向かって下がって行くからです。面倒だったのでしょうかサンツアーはジョッキープーリーをケージ支点に取り付けました。シーソー式と言うより振り子式と呼ぶべきでしょう。ただ元の設計がコンペテーション互換だったのでそのままでは34歯は少々苦しく変速機本体をフレームに取り付けるブラケット(当時余程の高級車で無い限りエンドはプレス製で変速機はブラケットを介して取り付けていた)の寸法を変更して対応していました。
後にサンツアーがストレートエンドも発売するようになった時にはGSエンドとGTエンドの2種類を出しました、GTエンドはローギヤ34歯対応です、ハブ軸と変速機取り付けボルトが数ミリGSエンドより離れています。 ですから間違えてレース用のブラケットを使うとローギヤに入らない事も有りました、ちょっと見には区別つかなかったです。 問題はトップ側です、当時トップは14歯でしたがそれでもケージ支点にジョッキープーリーが有っては、チェンが硬くても離れ過ぎでした、どうする? ケージの外側上部を延長してチェンを押せば良いさとばかりに巨大なヒレみたいなケージになりました。このケージはGT・V−GTのころはシンプルな曲線、単純な円弧でしたがラックス・Vxシリーズになるとアメリカ市場を意識したのかなと思わせるおどろおどろしい物になりました。
シマノの変速機はダブルテンション・天秤ケージと言う事で幾らか違いが有りました、ジョッキープーリーの位置を下げたのは共通の手法ですがパンタ本体の角度を下向きにしました。
今ではシマノ、SRサンツアー共にパンタ部の延長上にケージ支点を持って来ていますが、当時のサンツアーはパンタ部の下にケージ支点が有りました。取り付けボルト位置とケージ支点位置の関係は、その後インデックスシステム対策で設計が一変するまで、変更されること無く続きました。
さて変速機はなんとか成ったけど、当時はシマノ・サンツアー共に小さな企業でチェンは出来合いの物を使うしか方法が無く、最近のようにチェンの邪道を征くような物を作ってもらうわけには行かなかったのです。
どうする、歯数差6(34−28)を乗り越えるのは当時の硬いチェンにとっては無茶な注文でした。スラントパンタならともかくダブルテンションの変速機はケージ全体は事実上ハブ軸に平行移動するので、ギヤにもろに横からぶつかる様な動きなのです。
歯先に乗り上がれないでチェンはばたつくばかり、どうする?
歯先のカット形の特許をサンツアーに押さえられていて、どうする?
最大手のBSのパーツをサンツアーに押さえられていて、どうする?
窮すれば通じる物なのか、日本人に独創性が無いなどとほざいたのはだれだ、独創はここに有るぞ、とばかりに島野から一歯飛びのオルターネートギヤが登場。ロー側2枚のギヤの歯が飛び飛びに抜けているのです、34歯にいたっては歯が3つ続くと2歯分無くなり2歯続くと1歯抜けるといった具合に隙間だらけ。 ついでに歯の無い所は応力も少ないとばかりに大胆な肉抜きをして軽量化も達成。さあどおだ、歯があるから歯先でチェンがすべったり踊ったりするのだ、歯が無ければすべりも踊りもしないぞ。そのとおりでサンツアーからもチェン移りを良くするギヤ、ジグザグギヤ(歯が1枚毎に内外に開いている)が登場しましたがこの勝負シマノの勝ちでした。
その6に続く
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