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その10 「前田工業 7」
Vシリーズからの発展
Vシリーズによって世界の市場で認知されたサンツアーブランドは当然より高級な変速機を求められ、また高級品を出さねば「ブリキのおもちゃの国」、「トーイペット」(トヨペットクラウンの低性能を揶揄した)程度の評価しかされず「ゼロの様に手ごわい」とは間違っても呼んでもらえないのでした。(黄色人種の作った高性能の飛行機ゼロファイターは一時期恐怖と神秘の的だったので戦後の米国ペーパーバック小説の中には可愛い娘ちゃんに振られた男が「彼女はゼロの様に手ごわい」と言う場面が有りました)
高級とはなんぞや?
さて高級品が求められているのは判ったにせよ、そもそも高級品とはどのような物なのか?。カンパニョロ社のレコードもサンプレックス社のクリテリウムも世界に隠れも無い高級品だがVシリーズとは何が違うのか。試しにバフ仕上げのピカピカのVを出して見たけれどどうも違うようだし。
世に高級品の誉れの高い商品数々あれど何ゆえ高級なのか、セリーヌやバレンチノのバッグなどはコピー品の日本製の方が裁断も縫製もずっと丁寧で丈夫なのにパチモンはパチモンの評価でしか無いし、ヨーロッパの高級ホテルはサービスは行き届いているが設備は古くてエレベーターは内扉が無かったりするし、ああわからない。自動車メーカーの本田が高級車初代レジェンドを開発するさいに帝国ホテルの部屋を長期間借りて開発チームが泊り込んだのはデマじゃ無かったし。じゃあ高性能なら高級品なのかというと、ポルシェは「ビジネス特急」でしか無く、フェラーリは「貴族の車」だと言う、フェラーリは本国でも自宅の車庫より整備工場に長く居ることで有名なのにね、だから貴族の車なのだそうだが。
自転車の部品で高級品とは何が要求されるのか、仕上げが綺麗?動作が正確?重量が軽い?さび無い?見た目に美しい?しゃれっ気が有る?、判らない時には人に聴けば良い、そうだ聴きに行こう、Vを持ってヨーロッパの自転車工房を巡って回ろう。
どこぞの店主がブツブツ言うのには「こんなに形が大きくっちゃあ自転車のフォルムが台無しだ」とか「カチッとコンパクトに出来ないかねえ」とかさんざんだったそうです。特に横型パンタ機構が大きく見えたらしく「コンパクト」がキーワードになりました。手の中サイズというかスズメを握った感じのコンパクトさを追求する事になったそうです。
動作を決める支点やピン配置はいじる必要も無くもっぱら意匠(見た目のデザイン)と品質感を高め軽量化とコンパクトな感じを演出する事に専念した結果が初代「サイクロン」となりました。サイクロンはサンツアーにとって始めてのコンポーネント製品ともなりました、後変速機2機種(レース用とツーリング用の2種)、インナーノーマルに宗旨がえした前変速機、専用ダブルレバーの三点セットです。これらは箱入り!で発売されました。部品の一部を黒くアルマイト仕上げしたブラックシリーズも発売されて我が世の春を満喫・・・出来るほど世の中甘く無いのです。シマノの最高級シリーズがデュラエースシリーズとして発売になっていましたし、中級の600、普及の500と攻勢を掛けて来ていたのです。
特にサイクロンにとって痛手だったのは宗旨がえした前変速機のプレートがやや弱く強引な変速をするとプレートが曲がってしまったり、変速速度がスパートやSLに比べて遅く感じられた事です。ベテランにとっては何でもない踏み足の力を抜くペダリングも大学の新入部員には難しく、勝ちに征くレーサーにとっては勝機を逃す事になるので不評でした。
ただそのエレガントなある意味でヨーロッパ的なデザイン(意匠)はツーリングやスポルティーフにはうってつけで高級輪行車には積極的に採用されたようです。米国市場でも高い評価を受けていましたが彼らにはちょっと華奢だった様で後期型では後変速機のフレームへの取り付け部が太くなってしまいました。
サイクロンの後変速機のワイヤーの引き回しは大変凝っていて従来(今でも)ワイヤーはパンタ部の外を引き回すのに、パンタ部の中を貫通していました。サンツアーの変速機は後のインデックス対応α5000シリーズの登場まで一貫してストレートワイヤーメカニズムを採用していました、簡単に言えば変速機がどのギヤに入っていてもアウターとインナーワイヤーが一直線に成っていてアウター受け台座でインナーワイヤーが曲がって抵抗が増える事が無い様に設計されていたのです。
この項終わり、次回は迎撃デュラエース! シュパーブ連合結成への道。
本当かな
その11に続く
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