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【サンツアーの全て】

その14 「エアロダイナミクス」

空気抵抗は速度の2乗に比例して増える、空気抵抗値は係数掛ける投影面積となる。人類が乗り物を発明し、始めは牛車、馬車、蒸気機関車、内燃機関の自動車、飛行機と進化すると同時にスピードも早くなりました。ところが空気が邪魔である事を明確に意識していても、どうすれば良いのかはなかなか判りませんでした。いまから70年前のある日、ドイツはハインケル社の飛行機がエンジンから潤滑油を漏らせて緊急着陸しました、飛行場で見ていたハインケル博士は胴体にべっとりと付着したオイルが空気の流れを表している事に気がつきました、早速実験して見なければ、「すぐさまじゃ」と叫んだかどうかは知りませんが、翌日には実験機が飛び立ちました、消火器の中に煙突のススを入れて。ススは狙い違わず機体表面に空気の流れどおりに付着し、空気が渦を巻く場所など抵抗の原因を見せてくれました、すぐに新しい機体He70が開発されました、木製の滑らかな外形は今見ても抵抗が少なそうだなと思わせる物が有ります。He70は大変な成功作で旅客機(5−7人乗り)で有りながら、イギリスやフランスの一部の正式戦闘機よりも早かったのです、しかも馬力は半分で。正に空気力学の勝利の瞬間でした。

そうさ、前田工業に決定的に勝つには空気力学・エアロダイナミクス理論を応用しなければ。あっと驚くぞ前田もカンパもサンプレも、島野の天下も夢ではないぞと高笑いしたかどうかは知りませんが、突如としてデュラエースAXシリーズが登場しました。広告も派手でした、風同設備のプロペラの前にエアロヘルメットを被りスピードスケートのウェアの亜流を着た人間が自転車に乗っている姿を描いていました。

島野は本気でした、ブレーキレバーから飛び出るワイヤーを嫌いハンドルに沿わせる今に続く形式を採用、ブレーキも前後方向に厚くして3角断面にし(それまでは平べったい板状)サイズもギリギリまで小さくしたセンタープル、クランクは翼型断面・アームも翼型、ペダルはビィンディング式以前なので平たくした(今でもわずかに有る形式)、変速機は投影面積を少なくしアームも翼型断面でなんと縦型パンタ、シートピラーも当然翼型断面、等々。

以前からスポークの本数を減らしたり(これは効く)する事は行われていたのですが、ここまで徹底したのは始めてでした。モチロン、デュラ以外にもエアロパーツは開発されました、中級品からジュニアスポーツ用まで幅広い品揃えは島野の力の入れようをしめしていました。

業界他社も大慌てでエアロ化に着手しました、フレームパイプからアクセサリーまで珍奇な物も出現しましたが、我等が前田・サンツアーからも「マイクロライト・エアロダイナミクスコンセプト」の商品群がデビューしました。

変速レバー、前変速機、フリーホイールなどです。

変速レバーは従来の物がパイプの横に取り付けるのに対しパイプの上に、隠れるようにして取り付けられます。これで空気の流れを乱さないで済む、、というより後ろを変速すると前変速機を微調整しないとプレートとチェンが干渉する事の対策が取られていました。後ろレバーを動かすと前のレバー台座がわずかに前後移動する様な仕掛けになっていたのです。ついでにレバーそのものにも巧妙な仕掛けが有りオーバーシフト動作をした際の戻し動作を不要にしました。オーバーシフトとは、インデックス以前の変速機あるいは変速レバーはフリーの歯にチェンを乗せるために少し行き過ぎた位置まで変速機(厳密にはジョッキープーリー)を動かし、変速が終了したらレバーを少し戻してチェンとフリー歯がチャラチャラ音を発しない様にする事です。台座は一個ですしロー接はナットを一個埋めるだけ(ボトル台座と同じ)なので簡単

前変速機は全体をコンパクトに仕上げパンタ部の断面を翼型にした物。
台座留めにステンレスバンドを使い軽量化と変形パイプに対応していました。

フリーホイールは圧巻でした、マイクロライトの名に恥じない軽量フリー。ボディも歯も軽合金製で登場です。空箱かと勘違いするほど軽い物です。勿論このフリーはツールの山岳ステージで優勝を狙う物では無く、あくまで「コンナン出来ましたぁ」ですがわくわくさせてくれました。もっとも床の間に飾って置くべき物で実用に使うなんて野暮な事しちゃいけない製品ではありました。

エアロ化は各社にさまざまな新規珍奇部品を開発させました。
ちょっと例を上げると
 杉野はクランク エアロマキシィ・エアロマイティ、クランクとアームが翼型断面
 サカエはクランクに翼型断面、偏平ハンドルバー、ハンドルステムのクランプボルト位置を変更した物。
 吉貝はブレーキ エアログランコンペ、小型で3角断面のアーチ(世界最小?)
 日東はステムとハンドル
 石渡はフレームパイプに涙滴断面採用
 アラヤはリムにエアロリムと呼ぶ3角断面の物

などなど、ああ、あの時代は何だったのだろう。

その15に続く


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